Tokyo Document Recovery Assistance Force
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2011年7月3日日曜日

緊急避難させた本や文書のカビの発生と拡大はどのように防いだら良いのか

以下は、Hilary Kaplan による ”Mold: A Follow-up” の抄訳である。被災現場から緊急避難はさせたが、すぐには真空凍結乾燥等の処置を適用できずにいた本や文書は膨大な量になる。自然乾燥(風乾)させるしかない紙媒体資料のカビの発生と拡大をどのように抑え、クリーニングなどに従事する作業者へのカビの悪影響をどう防ぐか。著者は米国立公文書館のコンサーバター。


避難場所の大気環境条件

空気を循環する。温度は20~22度C に安定させる。相対湿度は可能な限り低くするのが望ましい。少なくとも60%以下に、理想的には35~40%を維持する。これを守ればカビの大規模な繁殖を劇的に抑えられる。



作業者のカビ耐性の確認

カビが大量に発生している被災現場や、避難場所でのクリーニング等に従事する作業者は、自らのカビ耐性を確認しておく。アレルギー症の人、妊娠中の人は作業を控える。自分のカビ耐性が分からない人は事前に医師に相談する。



マスクを選ぶ

顔に隙間なくフィットし、フィルター機能が NIOSH N95 基準に適合した、レスピレータ型のマスクを着用する。着用後は隙間がないかを十分に確認する。わずかな隙間からでもカビは侵入し、口から体内に入る。マスクは使い捨てにし、ポリ袋に入れて廃棄する。



真空掃除機を選ぶ

屋内でのドライ・クリーニング作業時の真空掃除機によるカビの吸引・除去は特に有効である。だが、掃除機のフィルターがHEPA基準を満たすことが絶対の条件である。これ以外の掃除機は吸引しても、排気時に作業場全体にカビを撒き散らし、作業者にも資料にも被害をもたらす。



隔離の方法

カビの被害を受けていない資料から隔離し、次の処置まで保管しておくために紙製の箱に入れておくのは、被害の拡大に有効である。この時に、可能ならば、シリカゲルのような除湿剤を入れて、資料の水分をできるだけ除くことも勧めたい。プラスチック製の袋は、搬送する場合などのカビの飛散は防止には有効である。しかし、密閉性が高いためにカビを繁殖をさせてしまう危険があるので入れたままにせずに、紙製の箱等に移し替える。



屋外でのドライ・クリーニング

空気が乾いた気候のおだやかな日を選んで、保管した箱ごと屋外に持ち出す。風下にカビが飛ぶ位置で、柔らかい刷毛で払い落とす。資料がまだ湿っていて、カビがまだ活性状態にある場合には、太陽光(紫外線)に当てるのは有効である。ただし、太陽光の紫外線はカビを死滅させるわけではないし、不活性になったにしても、カビを除去するのでもない。また、紫外線は紙を傷めることも知っておいて良い。




※ 訳者補注

空気循環は扇風機やサーキュレーターで。部屋全体に風が回り、湿気の溜まり(pocket) が出来ないのが望ましい。湿った資料には直接、風を当てないように。乾きムラが生じて乾燥時に歪んでしまうから。


保管場所全体の湿度を下げるための除湿機の導入は極めて効果が高い。


NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所) N 95 準拠のマスクについては以下を参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/N95マスク

例:3M 防護マスク 8200 N95 


HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)については以下を参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/HEPA

HEPAフイルター搭載の家庭用真空掃除機につては新製品が各社から次々に商品化されている。検索エンジンで調べていただきたい。


なお、著者は言及していないが、上記の基準をみたすレスピレータ・マスク、掃除機は、浮遊アスベストにも有効である。



以下は、東文救処置システムのドライ・クリーニング・ボックスとHEPA掃除機。ボックスの奥に掃除機のヘッド部が組み込まれている。




参考文献:カビ被害への緊急対応について、更に詳しい実践法が述べられているのが カナダ文化財研究所(CCI)の Mould Outbreak - An Immediate Response である。