2011年6月23日木曜日

エア・ストリーム乾燥法--大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する

津波により泥や塩水を被った文書や書籍などを、再び利用できるように復旧するためにはさまざまな問題がある。資料を解体し、一枚ものにした後に、乾いた泥を物理的に除去し(ドライ・クリーニング)、真水で汚れや塩分を洗い流す(ウェット・クリーニング)ことができたとしても、その次のステップである乾燥を首尾よく仕上げるのは簡単ではない。まして、それが大量にある場合には、たくさんの吸い取り紙を接触させ、水を吸い取ったら、新しい吸い取り紙に取り替えるという作業を延々と繰り返す必要がある。さらに、乾燥後の仕上がりをフラットに保つように調整していくのは、専門家にとっても易しくない。

こうした問題を解決するのがエア・ストリーム乾燥法(air stream drying of paper)である。

大量の湿った紙を、一枚づつ段ボールでサンドイッチし、これを積み重ねた束(スタック)の段ボール波板の隙間に強制的に空気を流す。すると絶えず新しい乾燥した気流が、濡れた紙の湿気を均一かつ急速に水蒸気に替えながらスタックから外部に送り出し、乾燥させる。ワンサイクル3~4時間ぐらいで乾燥が終わる。中途の吸い取り紙の交換も不要である。





この革新的な乾燥法は1988年に米国のコンサーバターの R. Futernick が提案し、90年代には米国の一部の工房で使われるようになった。2000年代に入ると、ヨーロッパのコンサベーション機関でも採用するところが出てきた。救援隊の構成メンバーである株式会社資料保存器材も同様である。そして、今年(2011年)になり、シュトゥットガルトの Staatliche Akademie der Bildenden Künste はエア・ストリーム乾燥法の科学的な裏付けを行い、Restaurator 誌 に Air Stream Drying of Paper として発表した。今回、著者らの快諾の元に、以下に全訳を掲載した。著者の一人であり、ヨーロッパの紙媒体の保存科学の指導的役割を果たしている Gerhard Banik 氏からは、翻訳許諾とともに、「今回の大震災の被災資料の救助に役立ててもらえたらことのほか嬉しい」という言葉が添えられたこともお知らせしたい。

「エア・ストリーム乾燥法--大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する」(蜂谷伊代訳)


なお、東京文書救援隊は、被災した紙媒体資料の復旧システムを、スキル・トレーニングと合わせて、現地の方々へ提供するボランティア活動を進めている。同システムは救援隊の構成メンバーである株式会社資料保存器材が専門的なペーパー・コンサベーションの仕事で培ったノウハウそして特許技術を組み合わせたものであるが、このシステムの最も重要な最後の工程がエア・ストリーミングによる乾燥である。先人たちの成果を踏まえ、どこでも手に入る身近な資材による簡易な乾燥ユニットを作った。近々に公開するシステム全体のマニュアルと動画の中で、下図の乾燥ユニットも詳しく紹介する。


東文救処置システムの乾燥ユニット
500~1,000枚/日が平らに乾燥できる