Tokyo Document Recovery Assistance Force
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2011年6月1日水曜日

被災資料の復旧処置システム


ここでご紹介するのは、一枚ものや簿冊、ファイル文書、和装本などに対して行う処置の一例です。すでに乾燥したもの、もしくは湿り気がほとんどなくなった状態のものですが、他の資料においても基本的な処置ライン(ドライ・クリーニング→洗浄→乾燥・フラットニング)は同様です。なお、使用した機材や処置工程の詳細については追って公開します。



①解体・ナンバリング

簿冊、ファイル文書、和装本などの表紙のあるものは、紐や糸を切る、ファイルから外すなどして、表紙から本文紙を取り出す。本文紙1枚1枚に対して、順番を違えないように番号を付ける。



②ドライ・クリーニング

掃除機、刷毛、超極細繊維のクリーニングクロスを使用して、資料表面の泥・砂・埃・カビの残滓等を除去する。固着した泥等は、適宜スパチュラやピンセットを使って物理的に取り除く。



③洗浄 (インクが水に滲みやすく、文字が消失する恐れがある資料に対しては適用不可)

水を張ったバットに発泡プラスチックボードなどを浮かせて作業台とする(フローティング・ボード法 1)。その上にネットに挟んだ資料を載せて、刷毛を用いながら泥汚れ等を穏やかに落としていく。その後、資料をネットから不織布へ移し替える。脆弱な資料については、(株)資料保存器材の特許技術である「クリーニング・ポケット法」(非営利目的での使用のみ無償提供)を利用する方法もある。



④乾燥・フラットニング 

不織布に挟んだ資料の水分を吸水クロスで取り、そのままコルゲート・ボード(段ボール)の上へ移動する。不織布に挟んだ資料を載せたコルゲート・ボードを積み重ね、横から扇風機やブロアーで風を3~4時間当てて乾燥させる(エア・ストリーム乾燥法 2)。



⑤整理・保管

乾燥を終え、フラットになった資料を取り出し、元の順番に並べる。簿冊やファイル文書など、簡単に綴じられる資料は綴じ直し、それ以外のものについては冊ごとにまとめて紐等で束ねる、もしくは封筒に入れて保管する。



※ 殺菌処置が必要な場合は、消毒用エタノールの噴霧などによる殺菌を処置ラインに組み込むことも可能です。なお、大量の資料に対して一括で行う応急処置(乾燥および殺菌)についても、大型乾燥設備による処置の技術的な詰めを進めており、近々紹介いたします。

また、上記内容は、専門的な知識や技術を持たない方へ向けたものとなっています。資料の綴じ直し・再製本や本格的な修復が必要な場合、判断に迷うような資料状態の場合は、別途ご相談ください。



処置事例
処置前                     処置後



[注1] フローティング・ボード法によるクリーニングは1966年のフィレンツェでの大規模図書館・アーカイブ被災資料の汚れ落としに導入された。資料全面をしっかりと支える板上で刷毛を動かしやすく、しかも水面に浮いているので汚れを逃がしやすい。 Cains, Anthony (2009), The work of the restoration centre in the Biblioteca Nazionale Centrale di Firenze 1967-1971, In; Conservation Legacies of the Florence Flood of 1966, Proceedings from the Symposium Commemorating the 40th Anniversary, 29-70.

[注2] 1980年代に米国で開発された乾燥法。ダンボールの波板の間に風を流すことで、乾燥とフラットニングが短時間にできる。しかもろ紙などの取り替えもないので手間が省ける。科学的な裏付けについては Banik, Gerhard et al.(2011), Air-Stream Drying of Paper, Restaurator 32, 27-38. を。全訳「エア・ストリーム乾燥法--大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する」 はこちら