Tokyo Document Recovery Assistance Force
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2011年12月24日土曜日

海水は本や文書の紙にどのような影響を与えるのか? 東京藝大と東文救との共同研究発表


海水に浸漬した本や文書の紙はそのまま放置すると将来、どうなるのか? --- 内外での知見がいっさい無かったこのテーマの研究成果が、21、22日の両日に開催された保存科学研究集会『被災文化財のレスキュー 保存科学の果たすべき役割と課題』(奈良文化財研究所主催)でポスター発表されました。



「海水で被災した紙資料の洗浄と湿熱劣化試験」と題されたこの発表は、東京芸術大学大学院美術研究科保存科学教室と東京文書救援隊の共同研究です。救援隊のスタッフが4月上旬に宮城県塩竈市での瓦礫撤去ボランティアの際に現地の港に堆積したゴミの中から拾ってきた本(1971年初版1500部限定)と、新たに購入した同じ本(被災していないもの)の本文紙に、洗浄処置と加速劣化試験を行い、その違いを比較検討しました。


この結果、洗浄は塩類成分の除去に十分に有効であること、また海水成分や水処理が、紙の物理的強度や変色に影響を及ぼす顕著な差は見られないことが明らかになりました。さらに4週間の湿熱劣化(80℃、65%RH)試験で検討したところ、劣化挙動にもほとんど差がないことも示されました。


予稿集掲載論文と当日のポスターは以下の通りです。






なお、今回のサンプルは1970年に刊行された中性の書籍用上質紙であり、元々劣化しにくい性質を持っています。これと、例えば酸性の中質紙、リグニン成分が多いわら半紙や新聞紙、リサイクル紙であるコピー用紙、あるいは和紙に対する海水の影響を同じように見ることは早計でしょう。また、とりわけ近現代の文書資料は、使用されている紙もさることながら、イメージ材料(インク等)は多様です。海水の塩分はインクや顔料の褪色等をもたらさないのか?----こうした様々なモノへの長期的な影響の研究はこれからの課題です。