Tokyo Document Recovery Assistance Force
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2011年7月27日水曜日

東京文化財研究所「海水で濡れた資料の殺菌燻蒸における発がん性物質発生のリスクについて」 を公表


東京文化財研究所はこのほど、「海水で濡れた資料を殺菌煉蒸することによる発がん性物質発生のリスクについて」を発表しました。

海水で浸水した資料(主に海の塩の成分として塩化ナトリウムを含む)については、とくに濡れたまま煉蒸を行うと、原理的には、塩分に含まれる塩素と殺菌燥蒸剤の酸化エチレンまたは酸化プロピレンが反応し、クロロヒドリンのような人体毒性が強い物質(発がん性物質であることがはっきりしている物質、あるいは発がん性や生殖細胞変異原性が疑われる物質)の発生が懸念されるとしています。現在、殺菌煉蒸による影響の調査を実施しており、8月上旬に結果が判明するとのこと。 これに替わる、安全性の高い殺菌法についての言及は、この発表文では、ありません。ぜひ、示していただきたいものです。


海水で濡れた資料を殺菌煉蒸することによる発がん性物質発生のリスクについて






2011年7月20日水曜日

日本経済新聞【写真特集:東日本大震災】で大船渡への東文救システムの導入を報道

ウェブ版の日本経済新聞【写真特集】東日本大震災(7月18日付)で大船渡市への東文救システムの導入が8枚の画像付きで紹介されました。導入日(8月14日)には日経の報道カメラマンが丹念に取材、また翌日(15日)にも重ねて取材したようです。プロのカメラの目が捉えた迫力のある写真特集になりました。

Web刊日本経済新聞【写真特集】東日本大震災:身近な道具で紙を修復



洗浄工程を取材する日経報道カメラマンの比奈田悠佑さん


【写真特集】東日本大震災

2011年7月19日火曜日

文書復旧システムが大船渡Y・Sセンターと宮城資料ネット事務局へ導入されました

東文救の文書復旧システムが14日に大船渡市Y・S(ユース&シルバー)センターへ、15日に東北大学東北アジア研究センター内の宮城資料保全ネットワーク事務局に、それぞれ導入されました。

大船渡への導入は、すでに現地での写真資料の復旧に注力してきた紙本修復家の金野聡子さんが受け皿となってくれたことで極めて順調にすすみ、システムの設営と臨時職員の方々へのスキル・トレーニングは半日で終了、稼働を開始しました。なお、乾燥工程で使用するコルゲート・ボードについては、特種紙商事株式会社よりアーカイバルボード200枚をご寄贈いただきました。

当日、日経新聞が取材し15日に本紙に掲載されました。それによると「紙の文書は写真より破れ易いため、洗浄・修復には慎重さが必要」、「(専門家の金野さんでも)1日30枚が限度だった。今後は市から派遣された臨時職員7人とともに、1日約200枚のペースで作業を進められるようになる」としています。



職員の方々へのシステムの説明、HEPAフィルターを組み込んだドライ・
クリーニングから洗浄、乾燥までの一連の工程を実演、指導した。



宮城資料保全ネットワークでは、事務局中央の長テーブルにシステムを設営した後に、事務局の主要スタッフの皆さん、岩沼市教育委員会の伊藤大介さん、神戸の史料ネットの松下正和さんらにスキル・トレーニングをしました。

トレーニングに当たっては東文救を支援してくれる国立公文書館の修復係の田川奈美子さんと佐々木芙由実さんがチューターを引き受け、指導にあたりました。今回の実技で対象とした資料には製本された文書が含まれており、その解体と、乾燥後の再製本の方法も田川さんらが伝授しました。

宮城ネットのスタッフからは「塩を含んだ資料は洗わねばと思いながらも、濡れた資料を傷めないように扱うのはとても大変だと思っていた。網や不織布を使うこの方法ならば、専門家でもなくともできる」。「綴じを外したり製本するのを自分でやることに自信ができた」という声が。自分の選んだ資料数枚をドライクリーニングから洗浄、乾燥にかけて2時間後に取り出したスタッフからは歓声が上がりました。


実際の被災資料を相手に復旧処置をする宮城ネット等のスタッフの皆さん。
折状の折が残るような乾燥とフラットニングの柔らかい仕上がりに満足と。



2011年7月13日水曜日

国立公文書館修復係が東京文書救援隊を支援、今後のシステム導入やスキル・トレーニングへ職員を派遣

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東京文書救援隊が発足してから1ヶ月が経ち、東北各地で東文救復旧システムの導入が進む中、独立行政法人国立公文書館業務課修復係の若いスタッフ4名が公務として、東文救の活動を支援してくださることになった。東文救スタッフとともに現地に赴き、システム設営や現地の機関のスタッフあるいはボランティアの方々へのスキル・トレーニングを共同で行うことになる。写真は7月15日の宮城歴史資料保全ネットワークへのシステム導入に向け、打合せと各工程の方法の再確認を行っている様子。

2011年7月12日火曜日

6月の活動報告: 石巻文化センター、宮城ネット、大船渡総合福祉センター、遠野文化センターが東文救システムを導入へ

被災資料とその復旧作業の現状理解、東文救の活動趣旨と復旧システム説明のため、6月24日に石巻文化センターと宮城歴史資料保全ネットワーク(以下、宮城資料ネット)を安江(代表)と木部(事務局長)が、6月25日に上記2名と久利(救援隊スタッフ)が大船渡総合福祉センターを訪問しました。また別途、6月29日に遠野文化研究センターを安江と久利が訪問しました。以下、その簡単な報告です。


〈石巻文化センター〉


電気もまだ復旧せず、ファイルや文書の多くが湿った状態にある


宮城資料ネットの佐藤大介氏の案内の元、当方へ連携を呼びかけられた渡辺浩一教授(国文学研究資料館)とともに、宮城県の石巻文化センターを訪問しました。

海浜にある石巻文化センターは、特に建物の一階が壊滅的な被害を受け、書籍、公文書、現用文書等の大半が、海水、泥、そして近くの製紙工場からのパルプを被りました。このうち文化財発掘調査の報告書等の一部は、カビの発生を抑えるため凍結処理を行いましたが、残りは、一部の資料に自然乾燥が施されていたものの、大半が湿り気がまだある状態でプラスチック・コンテナや段ボールに入れられ、風通しの良くない部屋に置かれていました。電気も水道も、まだ当分、復旧する見通しがないとのことでした。

担当の石巻市教育員会学芸員の方は「これから夏に向かってカビ被害が拡大していく恐れがある。公文書類はこちらの目が直接には届かない他の場所に移しての処置が困難である。また、凍結乾燥したものはカビの被害は免れたが、泥汚れや塩分はそのままであり、利用できる状態にするのはこれからの仕事」と現状を説明されました。

これに対して私たちは、現在同センターが進めているカビ被害の拡大を防ぐための、風通しの良いところに資料を移す作業を継続し、可能な限り乾燥することを前提として、東文救の非被災文書復旧システムの導入を提案しました。東文救システムは対象資料を一枚もの(ペラ)に解体することが処置の条件になりますが、完全に乾燥しなくとも、紙がめくれる状態であれば適用可能であること、作業自体は難しいものではなく、専門的な訓練を受けない方々でも半日ほどのスキル・トレーニングを受けてもらえれば作業に着手できること、大半の資材が再利用可能であること等を、処置行程の動画を示しながら、説明しました。

学芸員の方は東文救活動の方針、内容を良く理解され、システム導入が資料の復旧に優れて有効と判断されました。「何よりも、他所に移動して手当てを施すのが難しい被災公文書の復旧を自分たちの手で行えるのが有り難い」とし、宮城資料ネット、渡辺教授等の協力の下、実現に向けて早急に取り組むことになりました。今後センターは、作業場所、作業員の確保等の見通しをつける一方、東文救は、復旧システムに必要な資材の調達等を図っていきます。稼働は8月の予定です。


〈宮城歴史資料保全ネットワーク〉


民間資料の救助を積極的に行う


宮城資料ネットは長年、宮城県内の災害により被害に生じた民間資料の救出と復旧を精力的に行っています。今般の災害においても、救出された資料がセンターに持ち込まれ、風乾やクリーニング等が行われています。ただ、救出される資料は増え続ける一方で、保管場所も手狭になりつつあり、また保全処置が追いつかないのが現状と見えました。

ここでも東文救は、石巻文化センターで行ったのと同じプレゼンテーションを行い、それが簡便、効率的、仕上がりの良いシステムと理解していただきました。宮城資料ネットは被災資料救出と保全作業に経験が豊富で、一通りの資材、要員、インフラも揃っています。ここでは東文救システムの導入は頗る容易と思えました。

東文救は同ネットに対して、現地調達が難しいシステム稼働資材を提供するとともに、システムの設営とスキル・トレーニングを7月15日に行うことになりました。


〈大船渡総合福祉センター〉


廊下いっぱいに並べられた写真やアルバムと金野さん


安江、木部、久利の3名が、一関駅から車で約2時間かけて大船渡市に向かいました。鉄道は不通状態が続いており、復旧の見通しがついていません。

大船渡も漁港等のある海辺よりの地域は壊滅状態。だが、幸いにも市の行政機関のほとんどが高台にあり、今回訪れた大船渡市総合福祉センターは、建物もインフラも無事でした。

ここでは金野聡子さんを中心に、民間の被災写真の復旧を行っていることで知られています。金野さんはコンサーバター養成機関である英国Camberwell College of Artsでアート・オン・ペーパーのコンサベーションを学び、地元の大船渡市で紙本・書籍保存修復の仕事をしておられます。

金野さんは「歴史資料としての古文書や、行政文書が大切なものであることは十分に理解している。しかし、この地で暮らしを営み、今回被災した民間の人たちにとって、家族や友達や、いろいろな行事を記録した写真やアルバムは特別な意味がある。家族や家を失われた方の中には、この一枚の写真しか家族を思い出す術がないという人もいる。そういう方々のために、なんとか記憶に残る記録として写真やアルバムを残したいと、ここでの作業を決意した」と語られました。

金野さんの熱意と努力が実り、市が場所とボランティアを確保。活動開始から3か月後の現在7名の臨時職員と共に写真を中心に復旧作業を進めています。

ここでの救助対象資料は主に写真ですが、このほかに肖像画や賞状、そして民間文書も持ち込まれるようになっています。また、大船渡市内全域から被災したものが持ち込まれるようになり、5台ある冷凍庫はすでに満杯、福祉センターの廊下にもアルバム等が並べられ風乾されていました。

ここが写真資料救助のセンターのようになったのには、金野さんだけでなく、金野さんと英国で同学の紙本・写真修復士白岩洋子さん(東京在住)の強力な支援が得られたことも理由です。白岩さんは地元の方ではありませんが、金野さんに寄り添う形で、現在も同地へしばしば足を運ばれ、一枚でも多くの写真を救いたいとボランティア活動を続けています。(白岩さんの「水害にあった写真の救出方法」を東文救ホームページに掲載させていただきました)。

金野さんには東文救システムを高く評価していただきました。「写真だけでなく、これから多く持ち込まれる文書類にも適用したい。」コンサーバターの仕事をされている金野さんには当方システムの詳細な説明は不要。早急に導入を実現したいと双方で合意しました。7月14日の導入が決まり、現在、準備中です。


〈遠野文化研究センター〉


職員の方々により乾燥・整理された資料。東文救システムを動画で紹介する


遠野市は柳田国男の『遠野物語』に描かれているような、この地の人々の暮らしの中で受け継がれてきた豊かな文化資源があります。遠野文化研究センター(所長:赤坂憲雄学習院大学教授)は今年4月に、これらの文化資源の調査研究と活用のため、遠野市立図書館内に設置されました。

今回の大地震と津波による被害を直接受けていませんが、三陸文化復興プロジェクトを開始し、被災した公立図書館や学校図書館を支援するため、献本を募り、被災した機関へと贈る活動をしています。また、被災資料の受入れ・処置も積極的に行っており、現在、大槌町立図書館の文書類、新聞スクラップ、郷土資料(図書)を預かり、乾燥等の復旧作業に取り組んでいます。職員が真空パック吸水法による水切り作業等で対応していますが、まだ湿っている資料が多く、一部には泥汚れ、カビ等の被害が顕著の資料もあります。

こうした資料への東文救システムの適用を小笠原同センター事務局長ほかの職員の方々に説明し、プレゼンテーションを行いました。その結果、明治・大正の公文書、次に新聞スクラップへの復旧に当方システムを適用することになりました。システム導入は7月下旬目途としています。要員についてはセンター職員とボランティアで常時3名は確保できるとのことです。遠野文化センターは既に資料乾燥等を実施している所であり、職員は作業に通暁されています。東文救システムの導入は容易と思われます。  

2011年7月8日金曜日

東京文化財研究所「殺菌燻蒸やクリーニングの際の注意点 」を発表

東京文化財研究所はこのほど、「被災文化財について殺菌燻蒸、およびその後のクリーニングを 実施する場合の注意点 」を同研究所HPに発表した。


このうち「2.  殺菌燻蒸後のクリーニング実施上の注意点」では、


燻蒸したからといって、安心せず、カビが顕著な作品などを扱う作業の際には、十分な装備(防塵マスク(少なくとも国家検定規格 DS2 以上の性能、または米国 NIOSH 規格 N95 以上の性能を有するものを使用のこと、中でも活性炭入りのものが望ましい)、作業着、頭髪をカバーする使い捨ての手術用キャップなど)を装着することを怠らず、作業後の手洗い、うがいを徹底する。また、防塵マスク使用の際は、よく装着方法を読み、正しく装着する練習を行っておく。

また、作業する空間については、食事や休憩をする休憩室とは空間を厳密に分け、汚染された業着のまま休憩室に入ることは避け、ほかの空間を汚染しないよう注意する。

 一度、カビのアレルギーに感作してしまうと、少量のカビでも発作がおきるようになってしまう。とくに、アレルギー体質やぜんそくの方は厳重な注意が必要であり、ご自身がそうでなくとも、家族にそのような体質の方がいる場合には、汚染された衣類などによる二次被害をおこさないよう、注意が必要である。

 各自の装備だけでなく、作業を行う環境の管理も必要である。特に乾式クリーニングなどでカビが飛散する場合、それをできるだけ排気する工夫と集塵する工夫が必要である。空気清浄機は文化財用にはフィルター式のものだけが使用できるが、フィルターの管理には留意する。一般的なエアコンのフィルターではカビの胞子レベルの粉塵については十分な集塵はできない。ただし、カビの胞子レベルの浮遊塵でも、翌朝机上や床面のふき取りを行うことで、前日の作業で飛散したカビの集塵としての高い効果が期待できる。


--等を挙げている。

ConsDislist への「海水を含む紙」についての質問に対する回答

保存修復分野の世界的なメーリング・リスト Consevation Distlist へ「海水を含んだ紙への影響と除去法」について下記のように質問を投稿しました。


Paper Damaged by Seawater
From: Kaname Shimada <shimada>
Date: Tuesday, June 14, 2011

 As a result of the Great East Japan Earthquake on March 11, 2011, Japanese paper and book conservators are struggling with the rescue and recovery of paper-based objects that have been fully or partially soaked, or moistened with seawater. In the past two months since the earthquake and tsunami hit, the rescue response for photographs, documents, and books by conservators in the affected areas has been very slow.

Even now when over three months passed, these damaged materials are covered with mud and slime, also a continuing mold growth has been reported. However, with ambient temperatures rising, the rescue operation is considering prompt temporary measures such as rinsing and drying until full or partial treatment is available in the near future.

A survey of published conservation literature has not provided any information regarding the recovery of such objects, including information related to the long or short-term effects on paper following exposure to the contents of seawater.

If you have any experience recovering large volumes of paper-based objects that have been contaminated with seawater, or if you can suggest any relevant literature on the subject, please share it withus.

Kaname Shimada
Conservator
Shiryouhozon-kizai Co., Ltd.



これへの回答が2つ、寄せられました。


いずれも、海水の塩が残留した紙が経時後にどのような影響を及ぼすかについては明快な答えはありませんでした。これは当然といえば当然で、AATAやBCIN 等の文献データベースを検索しても皆無で、こうした研究は過去に行われたことがないということになります。この意味では、東嶋健太氏、江前敏晴氏らの「水害被災した紙文化財の塩水を用いた緊急保存法の開発」は先駆的な研究と言え、今後の今後の紙そのものへの残留塩分の影響の研究が期待できます。また、東文救は大学の保存研究者らの協力を得て、東日本大震災で実際に被災した書籍と、同じ書籍で被災していないものの本文紙の比較試験を始めています。いずれ結果をお知らせします。


以下はConsevation Distlist から。


Paper damaged by seawater
From: David Tremain <datintel>
Date: Monday, June 20, 2011


When I worked for the Canadian Conservation Institute (I am now retired) we were occasionally asked by the Transportation Safety Board of Canada to vacuum freeze-dry aircraft logbooks (and sometimes ship's logbooks) that had been immersed in sea water as a result of an air crash or ship sinking.  What we found was that the salt in the sea water was extracted during the vacuum freeze-drying and collected as a lump of ice in the condenser of the freeze-drier.


The documents still smelled of sea water, but airing out afterwards usually eliminated the smell. If there were salt deposits on the surface of the paper these could be brushed off with a soft brush.  I would suspect that by now all the documents are dry, so I doubt that there is any point in freeze-drying at this stage. It is also very expensive. Mud, slime and mould can be brushed off under controlled conditions (i.e. in a Level 2 biohazard chamber, or a fume hood, or outside if neither of these is available). I would be leery about rewetting these documents without testing for solubility of inks first; also, rewetting runs the risk of moving the mud and slime around on the paper, and possibly driving them into the paper.


Therefore, if everything is now dry I would suggest brushing and vacuuming dirt, mud, slime, mould using a combination of soft and semi-stiff brushes, and a vacuum cleaner fitted with a HEPA filter. Freezing (at -20 deg. C or colder) should arrest the mould problem.  Once the documents are cleaned, test the inks for solubility (if they are soluble the chances are that many of them will already have run). If the inks and the paper are stable then it may be possible to rewet and wash them. Remember, prolonged wetting and mould can severely weaken paper, therefore documents should be supported at all times on Pellon or Reemay polyester support material. If the paper is typical Japanese paper and very fibrous I would suggest using Pellon instead of Reemay since paper fibres tend to stick to Reemay and can be pulled off. 


These are just my thoughts, as a former paper conservator, and not those of the Canadian Conservation Institute. 


David Tremain





Paper damaged by seawater
From: Barbara Cattaneo <barbara.cattaneo>
Date: Monday, June 20, 2011


The first thought that comes to my mind is that sodium salts may act as oxidants on paper--not really sodium chloride itself, but some other compound already present in paper might that react with sodium. The first thing one would do is to wash the pieces in order to remove sodium. But you should check the presence of sodium after the treatment, too. I guess some sort of tester should exist, in paper strips form, or electrode device (such as pH tester).  It is also true that all the degradation reactions are encouraged by moisture, so drying up the paper material should be the first option. Freeze drying, or freeze and then air dry are valid options, too (depending on which inks, adhesives, bindings you are dealing with). I will investigate the effects of sodium in dry material, too and I will let you know. 


Barbara Cattaneo
paper conservator
National Library of Florence

2011年7月6日水曜日

被災した文書の復旧処置システム・マニュアル

津波により汚泥や塩水を被った資料は、被災現場から緊急避難が行われ、カビの発生や拡大を防ぐために乾燥まで持ち込めたとしても、現物としてそのまま利用に供することは難しいものが大半である。これらの資料のうち、現物として「かけがえのないもの」については、物理的に泥を除去し、真水で汚れや塩分を洗い、乾燥させ、フラットにする必要がある。ここで紹介する東文救復旧処置法は、資料の解体から始まり、最後の乾燥・フラットニングにいたるまでの一連の工程をシステム化したものである。どこにでも手に入る機材を用い、専門家ではない方々でも資料を傷めることなく、効率的に復旧作業に従事できることを眼目に、当社の専門的な技術やノウハウ、さらには実用新案と特許を元にして若いスタッフが一致協力して作り上げた。非営利的な利用に限って無償で公開する。これから復旧作業に関わる被災地の方々や機関、すでに従事されている方々等に大いに活用していただきたい。なお、導入にあたっては、復旧計画を当方へお知らせいただくとともに、口頭あるいは論文等での発表の際には「東文救復旧システム」であることをクレジットすることを、システム利用の条件にさせて頂く。今回の未曾有の被災状況に鑑み、私企業として培った技術を秘匿すること無く、全てを無償公開している私どもの「思い」をお汲み取りいただき、良識と信義ある活用をお願いしたい。ご不明な点があれば質問にお応えする。また、改良点があれば、ぜひご指摘いただきたい。 (株式会社資料保存器材代表 木部徹)

印刷用(PDF版)はこちら



作業を行う上での安全対策
 
今回対象となる資料は汚泥やカビだけではなく、その他の有害な物質に汚染されている可能性が考えられる。人体への安全性を第一に考え、長時間の作業で体調を崩すことのないよう、以下の点に十分に注意する必要がある。

  • 換気に気をつけて作業する。特にドライ・クリーニングはできるだけ屋外で行う。屋内で行う場合には、塵埃を撒き散らさいようにHEPAフィルター付き真空掃除機(※)で吸引しながら行う。
  • エプロンを着用するか、汚れてもよい服装で行う。
  • 塵挨やカビ胞子が飛散する恐れがあるので、NIOSH N95準拠のマスク(※)を必ず着用する。
  • 使い捨て手袋をなるべく使用する。ドライ・クリーニングや消毒用エタノールを使用した殺菌処置を行う場合は必須。
  • 作業後には手洗い・うがいを行う。
  • 作業中に体に何らかの異変が起きた場合は、すぐに作業を中断して医師に相談する。

※ HEPA掃除機やN95マスクについてはこちらを。



復旧処置工程  

下記作業(解体から乾燥まで)を3~4人で行った場合の1日の処置量は、250~300枚程度(A4版換算で)/日。

ここで使用する機材については、「必要機材リスト」を参照。 



①解体・ナンバリング  

簿冊、ファイル文書、和装本など表紙がある資料は、紐や糸を切る、ファイルから外すなどして、表紙から本文紙を取り出す。ステープルやクリップなどの金属物は除去する。その後、スパチュラや竹べらなどを用いながら本文紙を1枚ずつ剥がし、順番を違えないように本文紙の右下隅に、鉛筆で通し番号を書く。破損や汚れ等で右下隅への書き込みが難しい場合は、その付近で書き込み可能なところに記入する。ポスターや図面など、オモテ面への番号記入に差し障りがある場合は、ウラ面の右下隅に書き込むのも可。ページ番号があるものは、特に必要ない。一枚もので順不同になっても構わない場合は、ナンバリングは行わない。


②ドライ・クリーニング  

刷毛や超極細繊維のクリーニングクロスを使用して、資料表面の泥・砂・埃・カビ残滓等を除去する。刷毛やクロスを直接あてると破損を招く恐れのある脆弱な資料に対しては、資料にネットを被せ、その上から掃除機で吸引すると良い。刷毛やクロスを用いる場合、汚れを取ろうと力を入れすぎると、資料を傷めることになるので注意する。特に、紙力の落ちた資料や和紙の資料は、摩擦によって紙を傷めたり、紙の中に汚れを擦り込んでしまったりするため、気を付ける。部分的に固着した泥等は、スパチュラやピンセットを使って物理的に取り除く。この場合も、必要以上に行うと資料を破損させる恐れがあるので、無理には行わず、次の洗浄工程に委ねる。

なお、ドライ・クリーニングの工程は、洗浄以降の工程とは別に、あらかじめまとめて行っておいて良い。




【注意事項】
  • 使用した刷毛・クリーニングクロスは他の用途に転用しないこと。作業が終わったら、良く洗浄してアルコール殺菌する。
  • 人体に有害な塵挨やカビ胞子を作業場に拡散させないように、基本的に屋外で行うのが望ましい。屋外での作業が難しい場合は、 HEPAフィルター付き掃除機と、覆いとなるもの(コルゲート・ボードの箱など)を組み合わせた簡易的な設備(ドライ・クリーニングBOX:動画参照)を 利用すると、周囲への粉塵の飛散を抑えられる。


③洗浄

バットやコンテナに水を張り、発砲プラスチックボードなどを浮かせて作業台とする(フローティング・ボード法[注1])。資料をネットの上に載せ、軽く折れやシワを伸ばす。別のネットを資料の上に被せてから発泡スチロール板の上に載せる(「フローティング・ボード法(断面図)」参照)。板を軽く押して、資料の上に水を流し入れる。その後、ネットを外し、資料を刷毛で直に撫でながら、汚れを落としていく。片面を洗い終えたら、再びネットを被せてネットごと裏返し、もう片面も同様に洗う。ただし、薄い和紙や、虫損の酷い資料、あるいは紙力が落ちている資料は、直接刷毛をあてると破損を招く恐れがある。その場合は、ネットを被せたままネットの上から刷毛で撫で、汚れを穏やかに落とすにとどめる。

汚れの著しい資料に対しては、バット等を2つ用意し、1つをすすぎ用とするのも良い。その場合も、発泡スチロール板上で行う。


洗浄が終わったら、ネットごと資料を持ち上げ、軽く水気を切ってから吸水クロスの上に置く。その後、資料を挟んでいたネットを不織布に取り替えて、フラットニングの工程に備える。取り替えの手順は以下の通り。まず、オモテ側のネットを外して不織布に換える。次に、ネットと不織布に挟んだ状態で資料を裏返し、オモテ側に来たネットを外して不織布に換える。最後に、不織布の上から吸水クロスや吸水スポンジで軽く押さえて、水分を取り除く。






 フローティング・ボード法(断面図)
フローティング・ボード法(断面図)


【注意事項】 
  • インクが滲みやすく、文字が消失する恐れのある資料に対しては適用を避けたほうが良い 。
  • 不織布は、後の乾燥・フラットニングにおける紙の挙動に大きく影響し、仕上がりを左右する重要なポイントとなる。そのため、寸法安定性と柔軟性に優れ、かつ高強度であり、表面が滑らかな不織布の使用を勧める。 (「必要機材リスト」を参照)
  • ボードは、水に浮くものであれば木の板でも構わないが、発泡スチロール板やスチレンボードは軽量で加工しやすく、一定の強度があり扱いやすい。また、ほど良く「しなって」水を上に流しやすいという点も、この用途には適している。
  • 洗浄には温水を使用しても良い。特に寒い時期の作業では、温水使用が望ましい。
  • 特に脆弱な資料については、(株)資料保存器材の特許技術「クリーニング・ポケット法」を利用する方法もある。しかし、脆弱な資料は基本的に扱いが難しいため、判断に迷った場合は専門家の手に委ねた方が良い。クリーニング・ポケット法の詳細はこちら。なお、同法も非営利目的に限って無償提供する。
  • 殺菌処置を行う必要がある場合は、洗浄前にネットの上で乾いた資料を伸ばす際に、消毒用エタノール等を噴霧する。濡れた状態でのエタノール噴霧は殺菌効果がほとんどない。


④乾燥・フラットニング  

コルゲート・ボードの上にろ紙を置く。そのろ紙の上に不織布に挟んだ資料を載せる。次に資料の上にまたろ紙を置き、最後にコルゲート・ボードを重ねる。全体の構造としては、資料を不織布でサンドイッチ、不織布をろ紙でサンドイッチ、ろ紙をコルゲート・ボードでサンドイッチとなる(断面図を参照)。これを洗浄した紙ごとに繰り返し、高さ30センチ程度まで積み重ね、一番上にプレス板を載せる。積層したボード類を固定し、若干の圧力をかけるため、適度な重さの重石(動画では6kg)をプレス板の上に置く。コルゲート・ボードの孔のあいた断面側に扇風機を配置し、風を2~4時間(紙の種類等により異なる)当てて乾燥させる(エア・ストリーム乾燥法[注2])。




                エア・ストリーム乾燥法(断面図)
エア・ストリーム乾燥法(断面図)


【注意事項】
  • 資料を挟んだ不織布の端が、コルゲート・ボードからはみ出さないように注意する。コルゲート・ボードの孔を不織布で覆ってしまうと、送風機能が十分に働かず、乾燥ムラができたり、乾燥時間が長くなったりする。
  • 「③洗浄」から「④乾燥・フラットニング」までは一連の流れで行う必要がある。作業人数が多く、1日でかなりの枚数の洗浄~乾燥・フラットニングを行える時は、上記のエア・ストリーム乾燥法のユニットを幾つか並べて使う方法と、スチールラックと工業用扇風機を組み合わせ、縦に連結したユニット(縦型連結ユニット:動画参照)を新たに作成・導入する方法がある。縦型連結ユニットは、大量の資料(約100枚/棚×3棚=約300枚(A4))を省スペースで一度に乾燥できる。 


⑤整理・保管  

乾燥を終え、フラットになった資料を取り出し、元の順番に並べる。簿冊やファイル文書など、簡単に綴じることができる資料は新規の糸やファイルを用いて綴じ直す。それ以外のものについては、資料を冊ごとに別の紙でくるみ紐等で束ねる、もしくは封筒に入れて保管する。



※ 上記の復旧処置作業は、専門的な知識や技術を持たない方へ向けたものとなっている。資料の綴じ直し・再製本や本格的な修復が必要な場合、判断に迷うような資料状態の場合は、別途専門家に相談すること。


資料の仕上がり(サンプル)

<処置前>                                           <処置後>
01和本処置前  02和本処置後 03洋装本処置前  04洋装本処置後 05ファイル文書処置前  06ファイル文書処置後 07一枚物処置後前 08一枚物処置後




[注1] フローティング・ボード法によるクリーニングは1966年のフィレンツェでの大規模図書館・アーカイブ被災資料の汚れ落としに導入された。 Cains, Anthony (2009), The work of the restoration centre in the Biblioteca Nazionale Centrale di Firenze 1967-1971, In; Conservation Legacies of the Florence Flood of 1966, Proceedings from the Symposium Commemorating the 40th Anniversary, 29-70.

1966年のフィレンツェ被災文書の洗浄に導入された
フローティング・ボード法。木製の板(合板)が使われた


[注2] 1980年代に米国西海岸の印刷所でリトグラフ等の印刷直後の湿った紙を早くフラットに乾かすために開発され、ペーパー・コンサベーションの分野でも使われるようになった。この乾燥法の科学的な裏付けについては 「エア・ストリーム乾燥法―大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する」 を参照。

2011年7月3日日曜日

緊急避難させた本や文書のカビの発生と拡大はどのように防いだら良いのか

以下は、Hilary Kaplan による ”Mold: A Follow-up” の抄訳である。被災現場から緊急避難はさせたが、すぐには真空凍結乾燥等の処置を適用できずにいた本や文書は膨大な量になる。自然乾燥(風乾)させるしかない紙媒体資料のカビの発生と拡大をどのように抑え、クリーニングなどに従事する作業者へのカビの悪影響をどう防ぐか。著者は米国立公文書館のコンサーバター。


避難場所の大気環境条件

空気を循環する。温度は20~22度C に安定させる。相対湿度は可能な限り低くするのが望ましい。少なくとも60%以下に、理想的には35~40%を維持する。これを守ればカビの大規模な繁殖を劇的に抑えられる。



作業者のカビ耐性の確認

カビが大量に発生している被災現場や、避難場所でのクリーニング等に従事する作業者は、自らのカビ耐性を確認しておく。アレルギー症の人、妊娠中の人は作業を控える。自分のカビ耐性が分からない人は事前に医師に相談する。



マスクを選ぶ

顔に隙間なくフィットし、フィルター機能が NIOSH N95 基準に適合した、レスピレータ型のマスクを着用する。着用後は隙間がないかを十分に確認する。わずかな隙間からでもカビは侵入し、口から体内に入る。マスクは使い捨てにし、ポリ袋に入れて廃棄する。



真空掃除機を選ぶ

屋内でのドライ・クリーニング作業時の真空掃除機によるカビの吸引・除去は特に有効である。だが、掃除機のフィルターがHEPA基準を満たすことが絶対の条件である。これ以外の掃除機は吸引しても、排気時に作業場全体にカビを撒き散らし、作業者にも資料にも被害をもたらす。



隔離の方法

カビの被害を受けていない資料から隔離し、次の処置まで保管しておくために紙製の箱に入れておくのは、被害の拡大に有効である。この時に、可能ならば、シリカゲルのような除湿剤を入れて、資料の水分をできるだけ除くことも勧めたい。プラスチック製の袋は、搬送する場合などのカビの飛散は防止には有効である。しかし、密閉性が高いためにカビを繁殖をさせてしまう危険があるので入れたままにせずに、紙製の箱等に移し替える。



屋外でのドライ・クリーニング

空気が乾いた気候のおだやかな日を選んで、保管した箱ごと屋外に持ち出す。風下にカビが飛ぶ位置で、柔らかい刷毛で払い落とす。資料がまだ湿っていて、カビがまだ活性状態にある場合には、太陽光(紫外線)に当てるのは有効である。ただし、太陽光の紫外線はカビを死滅させるわけではないし、不活性になったにしても、カビを除去するのでもない。また、紫外線は紙を傷めることも知っておいて良い。




※ 訳者補注

空気循環は扇風機やサーキュレーターで。部屋全体に風が回り、湿気の溜まり(pocket) が出来ないのが望ましい。湿った資料には直接、風を当てないように。乾きムラが生じて乾燥時に歪んでしまうから。


保管場所全体の湿度を下げるための除湿機の導入は極めて効果が高い。


NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所) N 95 準拠のマスクについては以下を参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/N95マスク

例:3M 防護マスク 8200 N95 


HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)については以下を参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/HEPA

HEPAフイルター搭載の家庭用真空掃除機につては新製品が各社から次々に商品化されている。検索エンジンで調べていただきたい。


なお、著者は言及していないが、上記の基準をみたすレスピレータ・マスク、掃除機は、浮遊アスベストにも有効である。



以下は、東文救処置システムのドライ・クリーニング・ボックスとHEPA掃除機。ボックスの奥に掃除機のヘッド部が組み込まれている。




参考文献:カビ被害への緊急対応について、更に詳しい実践法が述べられているのが カナダ文化財研究所(CCI)の Mould Outbreak - An Immediate Response である。