東文救の文書復旧システムが8月2、3日に岩手県遠野市の遠野文化研究センターに導入され、着々と復旧作業が進んでいます。
同センターは、震災直後から三陸地方における被災地支援の拠点となり、三陸文化復興プロジェクトとして、被災した公立図書館や学校図書館を支援するための献本活動などを実施されています。また、5月には大槌町や陸前高田市など、津波による甚大な被害を受けた地域に職員が入り、様々な文化財の救助活動も行われたとのことです。その一環として、大槌町立図書館の文書類や、地方紙の新聞スクラップ・ブック、郷土資料(図書)などを救出し、6月の半ばから、小笠原同センター事務局長の指揮のもと、資料の乾燥作業に取り組まれてきました。しかし、作業当初から海水に浸かった資料をそのまま乾燥させることへの不安や、塩のベタつき、異臭などの問題をどうするか苦慮していたとのことです。そこへ、東京文書救援隊が視察へ赴き、文書復旧システムの適用を提案、直ぐさま、システムの導入が決まりました。
大槌町立図書館から救出した資料。当初は風乾やキッチンペーパー、
布団圧縮袋を使用した水切り・乾燥作業が行われていた。
協議の末、東文救文書復旧システムをはじめに用いることになったのは、明治20年代~昭和20年代までの議会記録、および昭和8年の大津波に関連した資料など全158冊。厚みや質感が様々な和紙・パルプ紙に墨やインク、スタンプなど多様な書写材料が使われていました。これまでの水切り、乾燥作業により、大半の資料はほとんど乾いていましたが、総じて塩のベタつきが残っており、泥汚れやカビが酷いものもありました。また、一部の資料は海水でインクが滲んでいたり、ほとんど流れているものもありましたが、いずれもシステムで処理が可能なものでした。
明治20年代から昭和20年代までの大槌町の議会記録など。泥汚れ、カビなどが見られ、
インクが流れているものもある。 また、海水の影響で、紙がベタつきが生じている。
2日間のスキル・トレーニングには、遠野文化研究センターや市立博物館をはじめとする遠野市役所の職員や、学生ボランティアなど、延べ20名近くの参加者が集まりました。トレーニングにあたっては、国立公文書館修復係の阿久津智広さんと田川奈美子さんが中心となり、参加者に対し、丁寧な指導を行いました。はじめは、非常に薄い資料の取り扱いなどに苦戦を強いられ、思うようなペースで作業が進まなかったものの、トレーニング開始から2時間ほどで参加者の方々もかなり慣れた様子に。初日は、2時間の作業(平均4~5名)で40枚の処理に留まりましたが、2日目は順調なペースで進行し、4時間の作業で110枚の資料を処理することができました。乾燥後に取り出された資料は塩のベタつきが取れ、異臭も大幅に軽減されており、その仕上がりの良さに歓声が上がるほどでした。後日、同センターの川合さんからは、『これまでスクウェルチ・パッキング法(真空パック吸水法)を行っていましたが、私たちの技術では、これ以上作業を進める自信がなく、脱塩や泥の臭いが気になっていた。そういったなか、東京文書救援隊の全面的なバックアップでシステムを導入、スタッフの方の丁寧な指導により、資料の異臭も無くなり、紙本来のサラッとした手触りを取り戻すことができ、大変な効果が実感できた。』というお誉めの言葉をいただきました。
国立公文書館の阿久津さん、田川さんの実演後、実際の被災資料に復旧処置をする遠野文化研究
センターの皆さん。処理後の資料は塩のベタつきが取れ、サラッとした仕上がりに皆さんが満足された。
現在は更にペースが上がり、1日に200枚以上の資料を処理できる日もあるそうです。今後は、作業人数を増やし処理量を増やしていきたいとのことです。また、救援隊としてもシステムの効率化を図り、現地の皆様に還元したいと思っています。