予稿集掲載論文は以下の通りです。
東京文書救援隊の文書復旧システム---その考え方と技術
ネット版毎日新聞(毎日JP)の記事にも。
文化財:研究者ら150人、被災資料復旧で意見交換 奈良・平城宮跡資料館で保存科学研究集会 /奈良
東京文書救援隊は従来型の紙製クリーニング・ボックスと併せ、この新型ドライクリーニング・ボックスを、簿冊などのカビや汚泥のクリーニングに使いたい被災地や被災地支援を行なっている機関に提供します。ご相談下さい。
また16日には法政大学と陸前高田市議会との間で結ばれた包括的な連携協力のための協定締結のために訪れた伊藤明彦・市議会議長らの一行が現場を訪れ、復旧事業の説明とともに、作業スタッフが行なっているドライ・クリーニング、洗浄、乾燥・フラットニングという一連の作業を見学しました。
11月14日に復旧システムの設営とスキル・トレーニングを実施します。また、16日には、陸前高田市の市議会議長らもこの作業場を訪問するとのことで、そこでのお披露目も予定されています。
遠野市遠野文化研究センターでは、文書の破れや破損を和紙と糊で補修する方法と、簿冊の製本法を指導しました。糊は正麩糊から電子レンジで作りました。和紙は品質の良い機械漉きの薄葉を提供しました。製本法は、元のが2穴の平綴じでしたので、しっかりと綴じられて、しかも外しやすい方法を、モデル(雑誌に穴を開けたもの)を使って伝授しました。
10月14日に開催された全国図書館大会第11分科会「災害と資料保存」において、「被災資料を復旧する--東京文書救援隊の考え方と技術」の講演を行いました。講演後のワークショップでは、文書復旧システムを参加者に体験してもいました。実体験の希望者が多く、活気のある会になりました。
作業者の皆さんに技術を伝授する国立公文書館修復係のスタッフ。
海水を浴びた文書が平らにすっきりと仕上がり、悪臭も消えた。
毎日新聞(9月14日付け)の記事「東日本大震災:津波で汚れた公文書を修復---宮古/岩手」
国立公文書館における震災への取組
国立国会図書館カレントアウェアネス:E1210 - 被災地支援活動紹介(2)遠野文化研究センター
遠野文化研究センターへの東文救文書復旧システム導入報告
群馬県立文書館が実施している被災公文書救助活動に、東文救の文書復旧システムが導入されています。同館は、早期から被災地の文書救済活動に取り組んだ施設の一つです。その一環として6月の半ばに宮城県女川町役場の被災文書を預かり、復旧作業を行ってきました。対象資料は、明治から平成までの税務課・町民課の簿冊など約300点。移管当初はかなり濡れているものもあったそうです。その後、国文学研究資料館が釜石市役所で実施した文書救助活動を参考にしながら、およそ15名の職員でキッチンペーパーによる吸水作業を繰り返し、7月中には全ての資料の乾燥が終了。現在は、ドライ・クリーニングと綴じ直しの作業を行っています。
群馬県立文書館に移管された女川町役場の被災文書。
乾燥作業は終了し、現在はドライ・クリーニングや綴じ直しを行っている。
東京文書救援隊としては7月13日に群馬県立文書館を訪問し、資料の状態や作業場を拝見するとともに、東文救の文書復旧システムを紹介しました。館での検討を重ねた後、8月1日に、同館の職員2名が復旧システムの視察とスキル・トレーニングのために工房へ来社。お二人は実際にシステムを使用したり、救援隊スタッフから簡易的な製本方法の指導を受けました。その後、女川町の被災文書への適用の可能性を協議した結果、一部の資料に対し復旧システムを使用することに。救援隊からは濾紙や不織布などの資材を提供しました。
工房で復旧システムの指導を受ける、群馬県立文書館職員の方々。
フローティング・ボード法による洗浄や、簡易的な製本方法を入念に確認していました。
工房でのスキル・トレーニングの後、システムに関するサポートは電話やメールで対応していましたが、やはり実際の作業現場を拝見したほうが良いということになり、8月24日に救援隊スタッフが同館を訪問。作業場には、東文救のシステムを基に、職員の方々が段ボール箱などを転用して作ったドライ・クリーニングBOXやエア・ストリーミング乾燥設備などが設置されていました。多少の道具の違いはありましたが、いずれも作業するには申し分ないものでした。実際の洗浄・乾燥処理についても、職員の方々が事前に東文救のマニュアルを読み込んでいたことや、工房でのスキル・トレーニングが功を奏し、危なげ無く作業していました。また、処理後の資料の綴じ直しの一部にも、救援隊スタッフが指導した簡易的な製本方法が採用されています。当日、救援隊としては、機材への細かいアドバイスと、薄い資料の洗浄・乾燥方法を実演・指導しました。
自分たちで作成した復旧システムで作業をする群馬県立文書館の皆さん。職員の中には
普段から修補業務に携わっている方もいるため、刷毛の扱いなども手馴れた様子でした。
群馬県立文書館で行っている被災文書救助活動は9月中に終了し、女川町に返還される予定。期日の関係から、全ての資料を洗浄することは断念し、表紙や特に汚れの酷い資料にのみ適用することになりました。ただし、今後洗浄を行う必要が生じた場合に備え、女川町へ資料を返還する際、東文救の文書復旧システムも引き継ぎたいとのことです。
Paper Deep (2011/08/19)「東文救復旧システム」
東文救の文書復旧システムが8月2、3日に岩手県遠野市の遠野文化研究センターに導入され、着々と復旧作業が進んでいます。
同センターは、震災直後から三陸地方における被災地支援の拠点となり、三陸文化復興プロジェクトとして、被災した公立図書館や学校図書館を支援するための献本活動などを実施されています。また、5月には大槌町や陸前高田市など、津波による甚大な被害を受けた地域に職員が入り、様々な文化財の救助活動も行われたとのことです。その一環として、大槌町立図書館の文書類や、地方紙の新聞スクラップ・ブック、郷土資料(図書)などを救出し、6月の半ばから、小笠原同センター事務局長の指揮のもと、資料の乾燥作業に取り組まれてきました。しかし、作業当初から海水に浸かった資料をそのまま乾燥させることへの不安や、塩のベタつき、異臭などの問題をどうするか苦慮していたとのことです。そこへ、東京文書救援隊が視察へ赴き、文書復旧システムの適用を提案、直ぐさま、システムの導入が決まりました。
大槌町立図書館から救出した資料。当初は風乾やキッチンペーパー、
布団圧縮袋を使用した水切り・乾燥作業が行われていた。
協議の末、東文救文書復旧システムをはじめに用いることになったのは、明治20年代~昭和20年代までの議会記録、および昭和8年の大津波に関連した資料など全158冊。厚みや質感が様々な和紙・パルプ紙に墨やインク、スタンプなど多様な書写材料が使われていました。これまでの水切り、乾燥作業により、大半の資料はほとんど乾いていましたが、総じて塩のベタつきが残っており、泥汚れやカビが酷いものもありました。また、一部の資料は海水でインクが滲んでいたり、ほとんど流れているものもありましたが、いずれもシステムで処理が可能なものでした。
明治20年代から昭和20年代までの大槌町の議会記録など。泥汚れ、カビなどが見られ、
インクが流れているものもある。 また、海水の影響で、紙がベタつきが生じている。
2日間のスキル・トレーニングには、遠野文化研究センターや市立博物館をはじめとする遠野市役所の職員や、学生ボランティアなど、延べ20名近くの参加者が集まりました。トレーニングにあたっては、国立公文書館修復係の阿久津智広さんと田川奈美子さんが中心となり、参加者に対し、丁寧な指導を行いました。はじめは、非常に薄い資料の取り扱いなどに苦戦を強いられ、思うようなペースで作業が進まなかったものの、トレーニング開始から2時間ほどで参加者の方々もかなり慣れた様子に。初日は、2時間の作業(平均4~5名)で40枚の処理に留まりましたが、2日目は順調なペースで進行し、4時間の作業で110枚の資料を処理することができました。乾燥後に取り出された資料は塩のベタつきが取れ、異臭も大幅に軽減されており、その仕上がりの良さに歓声が上がるほどでした。後日、同センターの川合さんからは、『これまでスクウェルチ・パッキング法(真空パック吸水法)を行っていましたが、私たちの技術では、これ以上作業を進める自信がなく、脱塩や泥の臭いが気になっていた。そういったなか、東京文書救援隊の全面的なバックアップでシステムを導入、スタッフの方の丁寧な指導により、資料の異臭も無くなり、紙本来のサラッとした手触りを取り戻すことができ、大変な効果が実感できた。』というお誉めの言葉をいただきました。
国立公文書館の阿久津さん、田川さんの実演後、実際の被災資料に復旧処置をする遠野文化研究
センターの皆さん。処理後の資料は塩のベタつきが取れ、サラッとした仕上がりに皆さんが満足された。
現在は更にペースが上がり、1日に200枚以上の資料を処理できる日もあるそうです。今後は、作業人数を増やし処理量を増やしていきたいとのことです。また、救援隊としてもシステムの効率化を図り、現地の皆様に還元したいと思っています。